【エッセー】10歳と「2」

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2が好きだ。
アヒルに似ている、という
幼少期に聞いた歌のせいかもしれない。

曲線と直線とを兼ね備えた
スマートなフォルム。
「に」という柔らかな音声。
「1」の後ろに寄り添う、
控えめな性質さえも愛おしく感じる。

どこをとっても非の打ち所がない。

何か数字が必要なときに
進んで「2」を記入するのは、
幼いころから変わらない、
ある種の習慣と化してきている。

知的な友だち

4年生のころ仲良しの子がいた。
知的でユーモアに富んでいて、
大人もハッとさせられるような
鋭い着眼点を持っている。

その子と一緒にいると
頭が良くなったような
気分になれたし、
何より
ふたりで話していると
いろんなアイディアが湧き出して
楽しかった。

毎日、早く大人になりたかった。

好きな数字を尋ねて 知る羽目になったこと

あるとき不意に
彼女へ
何の数字が好きか尋ねてみた。
純粋な興味からである。

答えを待つ自分の中には
不動の「2」が鎮座していて、
同じであれば語り合い、
違えば説明できるようにと
好きな理由を脳内で整理しつつ
返答を待っていた。

少しして
「0が好き」
と彼女に返されたとき、

あ、負けた。と思った。

「れい」ではなく、「ゼロ」。
彼女の口がそれを発した瞬間、
脳内にあった説明用の手札は
全部
風で飛ばされてしまった。

10歳当時であっても
数字の好みに
優劣があるとは考えていない。
ただ、
彼女が「0」と言うのには
下手な偉人が「0」と言うのと
比較できないほどに
圧倒的な力を持っていた。

「そう」

それ以上、何も言えない。
理由を聞きたいようでいて、
これ以上何か話されると
さらに
彼女との差を見せつけられそうで
異常に怖かった。

そのあと
どんな会話をしたのか覚えていない。
立ち込める煙のような感情を抱えたまま
爽やかな季節に
差しかかろうとしていた。

2019.01.07.

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